大阪地方裁判所 昭和35年(ワ)3280号 判決
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【事実】一、原告の請求原因
(一)原告は、登録番号第一四二〇六九号によつて登録された意匠の意匠権(以下本件意匠権という。)を有するものである。この登録意匠(以下原告の意匠という。)は、意匠をあらわすべき物品として旧意匠法(大正一〇年四月三〇日法律第九八号。以下旧法という)施行規則第一〇条所定の物品類別中第二四類ラジオ受信機を指定して、別紙第四に示すとおりの形状及び模様の結合について昭和三三年四月一七日登録出願を、同年九月二四日登録されたものである。
(二) 原告は、同年八月から、この登録意匠をあらわしたトランジスターラジオを「TR65型」という名称で製造、販売してきた。
(三) 被告オリオン電気株式会社(以下被告オリオン電機という。)は、昭和三四年一月から同年九月まで、別紙第一に示す意匠(以下被告の第一意匠という。)をあらわしたトランジスターラジオを製造し、同年六月から少くとも昭和三七年三月現在まで、別紙第二に示す意匠(以下被告の第二意匠という。)をあらわしたトランジスターラジオを製造し、いずれも主として被告大竹貿易株式会社(以下被告大竹貿易という。)がこれを販売した。
被告の第一意匠及び第二意匠は、いずれも原告の本件意匠権を侵害するものである。<以下省略>
【判決理由】<前略>第二、侵害行為差止請求についての判断。
一、まず、原告の意匠(別紙第四。意匠公報記載の図面代用写真)と被告の第一意匠とを比較対照して、後者が前者と同一または類似であるかどうかを判断する。成立に争のない甲第一号証によると、本件意匠権は色彩を限定しないものであることが認められるから、色彩の両者における差異による審美的効果への影響を無視すべきであつて着色しないままの状態でその形状及び模様を対比することをもつて必要かつ十分とするものと考える。そこで、別紙第一、別紙第四(前記甲第一号証)及び原告の意匠をあらわしたトランジスターラジオと被告の第一意匠をあらわしたトランジスターラジオ(脱色)の写真であることにつき争いのない検乙第一号証の一、(中略)によつて、次のように判断する(意匠は、全体として看る者の視覚に訴える審美感を要素とするものであるから、二つの意匠が同一または類似であるかどうかを判断するのには、その意匠の要部すなわち、看る者の注意を強く引く部分を対比してすべきである。原告の意匠及び被告の第一意匠の要部は、トランジスターラジオの前面の意匠にあるということができる。よつて、前面の意匠を対比して検討する。)。
(1) 原告の意匠では、右側に全体の幅の約五分の一に相当する幅の縦の帯状部分があり、その上部の右側にくぼみを設けて、ここにボリユームスイツチを配置してある。このは点、被告の第一意匠でもその配置及び形状において全く同一である。
(2) 原告の意匠では、前記右側縦の帯状部分以外の約五分の四の部分を、ほぼ中央で、水平の細い帯によつて上下二つの部分に分けてある。これに対し、被告の第一意匠では、右側縦の帯状部分以外の約五分の四の部分を、ほぼ中央で、右上から左下へ斜めに横断する細い帯によつて上下二つの部分に分けてある。したがつて、原告の意匠では、分けられた上下の各部分がいずれも短形であるのに対し、被告の第一意匠では、それがいずれも梯形である。
被告らは、原告の意匠では、上下二つの部分は水平の細い帯によつて分けられているのでなく、上下二つの部分の境界線上に細い金属プレートが水平にはりつけてあるにすぎないと主張する。しかし、意匠として視覚に訴えるのは、帯状部分によつて上下二つの部分に分けられている点であつて、被告らの右主張は、形状及び模様にかかわりのない素材に関するものにすぎないから、両意匠を対比する上において考慮する必要はない。
(3) 原告の意匠では、上下に分けられた上の部分に大きな円形の同調ダイヤルを設けて、これに棒状の指針を置き、同調ダイヤルの周辺に図案化された数字を配置し、ダイヤルの左側にダイヤル操作用のくぼみを設けてある。被告の第一意匠のこの部分は、ダイヤル上の指針の形状が少し異るほかは、その配置及び形状において全く原告の意匠と同一である。そして、指針の形状の差は、微少であつて、意匠全体が与える審美感に差異を生じさせるほど顕著なものではない。
(4) 原告の意匠では、上下に分けられた下の部分全面にこまかい網状の模様をあらわしてある。この点は被告の第一意匠でも全く同一である。被告の第一意匠では、網状ではなくて無数の小点の集合であるとの被告らの主張は採用することができない。
(5) 以上各部分を分析して対比した結果を、全体にまとめて総合的に観察する。(イ)両意匠において看る者の視覚に強く訴える美的構成の主要素(要部)は、右側約五分の一の部分が縦の帯状部分であり、その他の約五分の四の部分がほぼ中央で細い帯によつて上下二部分に分けられ、その上部に大きな円形のダイヤルを設け、そのダイヤルの上に細い棒状の指針が置かれている形状であるということができる。(ロ)両意匠の視覚に訴える構成上の差異は、上下の部分が、原告の意匠では水平の帯によつて分けられ、それぞれ矩形を呈するのに対し、被告の第一意匠では右上から左下へ斜めに横断する帯によつて分けられ、それぞれ梯形を呈する点にある。主要素であるその他の部分は、審美感上両者の間に差異を感じさせない。そして、右の視覚に訴える構成上の差異は、主要素である他の部分が審美感上同一であるために、全体として観察すると、両者が別異であるとの印象を起こさせず、被告の第一意匠は原告の意匠の単なる変形(同類概念に属する変形ないし修正)であるとの印象を生じさせるにすぎない。被告の第一意匠は、原告の意匠と極めて顕著に類似するものであり、本件意匠権の権利範囲に属するものであるといわざるをえない。
<中略>他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
二、次に、原告の意匠と被告の第二意匠とを対比して検討する。
別紙第一、第二、第四(前記甲第一号証)<中略>によつて判断すると、被告の第二意匠は、被告の第一意匠との間に原告が請求原因(三)で主張する差異(注)があるほかは、被告の第一意匠と同一である。そして、被告の第二意匠に存する被告の第一意匠との差異は、その意匠の前記美的構成の主要素に変更を生じさせない程度のものであるということができる。したがつて、さきに被告の第一意匠について述べたと同様に、被告の第二意匠は本件意匠権の権利範囲に属するものであるということができる。
三、被告オリオン電機は、現在(原告のした被告の意匠使用差止仮処分執行以後)被告の第一、第二意匠をしていないことが認められる。しかしながら、今後被告らが右の意匠を使用しないことを断定するに足りる特別の事情を認め得る証拠がなく、後記認定のように被告らに本件意匠権侵害の事実がある以上、被告らはこれを侵害するおそれがあるものと推定するのが相当である。したがつて原告において、被告らの将来の侵害行為を予防することを請求する権利があるというべきである。(中略)
第三、損害賠償請求についての判断。
一、被告オリオン電機の故意または過失について。
意匠法(新法)第四〇条の規定は単に一般的・抽象的に証拠法則を定めた訴訟法規ではなく、意匠権侵害紛争の判断規範たる実体法規としての性質を有するものと解すべきである。したがつて、右規定は、新法施行前の事実に遡つて適用されないものと解するのが相当である。ところで本件侵害行為は、後述のように新法が施行された昭和三五年四月一日以前の昭和三四年中になされたものである。よつて、被告オリオン電機の故意または過失を原告において立証する必要がある。(中略)
二、損害について。
(1) 意匠法(新法)第三九条第一項の規定は、さきに第四〇条について述べたのと同一の理由で、本件に適用できない。よつて、原告の請求原因(四)、(1)の主張は、その余の点につき判断するまでもなく、採用できない。(山内敏彦 高橋欣一、なお小田健司は転付したので署名押印できない。)